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みかんいろの月

Kis-My-Ft2の横尾さんがダイスキデス。

私が横尾沼に落ちるまで

物心ついたときから、テレビを見るという習慣がなかった。おかげで、同級生がジャニーズのアイドルにきゃーきゃー言っている時も、まったく興味を持たない子どもだった。好きでも嫌いでもなかった。就職して一人暮らしを始める時に、テレビは買わなかった。しかしなぜか芸能ニュースは大好きで、新聞のテレビ欄や、週刊誌の広告等はよく見ていたので、芸能人の名前と出ているドラマやゴシップネタはよく知っているが、顔や楽曲は全く知らない、という不思議な大人に育った。

 

Kis-My-Ft2というグループがデビューしたということは知っていた。「すごいグループ名だな」と思った。しばらくしてコンビニでガムの広告を見た。「カッコつけた顔と服の男たちが、何か吐いてるけどこれでいいの?」と思った。それがキスマイの第一印象だった。「後ろの方にいる人全然顔見えないけど」と思った。それが横尾さんの第一印象だった。

 

それから数年がたち、私は仕事で大役を任されることとなった。毎日遅くまで気を張る仕事が続き、家に帰ってから寝るまでの間、ひたすら動画サイトでバラエティー番組をむさぼり見るのが唯一の癒しという生活が続いた。某動画サイトでは、いったん何かの動画を再生すると、関連動画が次々に自動で流れていく。何時間もただただ見るともなく見ていた時、私は「キスマイBUSAIKU!?」と巡り合ったのだった。

 

「カッコつけた人たち」と思っていたアイドルが、時にトンチキなシチュエーションで、いろんなことをやらされ、一般の人たちからひどいコメントをつけられ、本気で喜んだり、悔しがったりしているのが新鮮で、立て続けにキスブサばかり見た。メンバーの名前も把握しないまま、きゅんきゅんしたり、声出して笑ったりしているうちに、私はあることに気づいた。

 

ーーーなんか一人だけ、挙動が不審な人がいる…。

その人は、彼女を家に誘うというテーマで、「家来ない?汚いけど」と余計なことを言ったり、彼女に愛のある怒り方というテーマで、ガチ切れしてフォローもなしだったり、彼女をキュンとさせる車庫入れというテーマで、彼女とほとんど会話せず車庫入れだけは完璧だったりしていた。この人だけ「カッコよさを競う」という番組の大前提を伝えられていないのか?と心配になった。しかし、不器用な人なのかと思っていると、料理がとても上手だったり、メールの文面が細やかな気遣いにあふれていたりして、突然上位を取ることもあるのだった。

 

いったいなんなんだこの人?と思っているうちに、私は坂道を転がり落ちていたんだと思う。オレンジ色の沼のほとりで、怖々と水面をのぞき込む私を、後ろから蹴り飛ばしたのは、忘れもしない、「彼女の手料理がマズかった時に傷つけずに伝える優しい一言」がテーマの回。醤油麹の豚角煮を一口食べた彼は、彼女の方を見もせずに低い声でこう言い放った。

 

「味見した?」

 

いったい、彼女の手料理がマズかったことを伝えるのに、これほどまでに的確な一言が他にあるだろうか。他のメンバーみたいに「もうちょっと濃い方がいいかも。でもおいしいよ」とか「おもしろい味だね」とか「おかわり」とか言われたら、私だったら自分の料理がマズいということに気づかない。誉められたと思って毎日作るだろう。それに比べて「味見した?」の過不足のなさ。味見していたとしたら、自分の味覚センスのなさに恥じ入るしかないし、味見していなかったとしても、味見もせず料理を出した自分のズボラさを悔やむしかない。完璧だ。

 

今まで、ジャニーズはもちろん、好きな芸能人さえいたことがなかった私は、この一言で沼に落ち、そのまま浮かび上がることなく現在に至っている。沼に落ちてから、雑誌などで横尾さんのインタビューを読んだり、横尾担の方々のブログやツイッターを読んだり、スマホに替えたのでワンセグで横尾さんの出ている番組を見たりしてきたが、横尾さんという人を知れば知るほど、「味見した?」の一言に感じた、横尾さんの言葉のセンス、頭の良さ、的確さ、クールさ、飾らなさ、誠実さ、自分を貫く強さ、のようなものは、間違っていなかったと思う。こうして私は「味見した?出の横尾担」となった。