みかんいろの月

Kis-My-Ft2の横尾さんがダイスキデス。

春なんか大嫌いだけど――4月6日横尾さんの俳句に寄せて

横尾さんが俳桜戦で2位になりました。横尾さんが俳桜戦で2位になりました。(リフレイン)

 

4月6日のプレバト!!3時間スペシャルは番組初の試み、俳句特待生と名人によるタイトル戦。「俳桜」の称号を賭けて8人が勝負に挑みました。予告で横尾さんが落胆していたので、もうてっきり結果が良くなかったのかと覚悟して見ていたのですが、結果は2位!しかも3位は千賀さんって、本当に本当にすごいことですよね。

 

3週間前に名人に昇格し、負けられない立場となった横尾さんが、プレッシャーのかかる中で詠んだ俳句がこちら。

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2017.4.6 お題「満開の桜」

 

夜に入りて 雨となりにし 花万朶(はなばんだ)

 

俳桜戦2位(8人中)

季語:花万朶(春)

夜に入りて…「夜になって」

雨となりにし…「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。動作の完了を意味するが、予期しないこと、望まないことがおこったというニュアンスを表すこともある。「し」は過去の助動詞「き」の連体形。「雨となりにし」で「雨になってしまった」

花万朶…「花」は俳句で季語として用いられるときは桜のことを指す。「万朶」は多くの枝。体言止めで余情を残す。

 

 

「花万朶」なんて美しい言葉、初めて知りました。テレビガイドの千賀さんとの俳句対談で、「二つの言葉を合わせて季語になる」っておっしゃってたのはこのことだったのですね。「万朶」だけでは単に「(花の咲いた)たくさんの枝」を指すだけで、季語にはならないのを、俳句で桜を指す「花」と組み合わせることで季語にしています。「花」はそれだけではどのぐらい咲いているのかが分かりませんが、「万朶」と組み合わせることで満開であることがわかって、兼題写真を想像させています。お互いが補完し合うこの組み合わせ!さすが夏井先生に「誰よりも季語を使いこなしている」と言われるだけあります。

 

そして「夜に入りて」という上五。横尾さんの俳句の上五はいつも意表をついていて、続きはどうなるの?と期待をあおります。「夜」に「入る」という表現は、昼間に桜を見ていてその後、夜になった、という時間の経過を感じさせます。「雨となりにし」の「にし」という助動詞は、「残念ながら雨になってしまった」という詠み手の気持ちを表しています。自然な結果になったニュアンスを含む「雨『に』なりにし」じゃなくて、意外な結果になったニュアンスを含む「雨『と』なりにし」としたのも、さすがの言語センス。雨が降って残念な気持ちも、咲けば散ってしまう桜をいとおしむ気持ちも、散る前に見られてよかったと安堵する気持ちも、昼に見た満開の桜の美しさを思い出して感じ入る気持ちも、この俳句には詰まっています。横尾さんの俳句からは、たくさんの心情や光景が読み取れて、たった17文字しか使ってないとは思えません。どれほど言葉を吟味して、不要な文字を削り、何度も入れ替えて、この表現にたどりついているのでしょう。

 

プレバト!!で披露される横尾さんの春の俳句はこれで4句目になります。「春愁の言わで別れし日の記憶」(2016.2.25)では、満開の菜の花列車の写真を見て切ない過去を詠い、「卒業の君まなざしの大人びて」(2016.3.10)では、満開の桜の写真を見て別れの儀式を詠い、「行け行けど迷路のごとき花の路」(2017.3.16)では、桜と江ノ電の写真を見て桜に囚われたように進めない心情を詠い、今回は晴天の満開の桜の写真を見て夜にして雨を降らせた横尾さん。春爛漫の兼題写真を見ても、全くポジティブな方向へ行かない、この横尾さん発想力!千賀さんが素直に桜の美しさを愛で、「空の波」とファンタジックな比喩を使ったのとは真逆の発想です。この二人が「同僚」だなんて、まさに「これがKis-My-Ft2」ですよね。

 

 

私は春が大嫌いです。人見知りで、新しいことに順応するまで時間がかかる私にとって、人事異動や制度の刷新が行われる、春は恐ろしさしかありません。1年かけて仲良くなった人や慣れたシステムを連れ去り、いちからやり直しを命じる春が憎らしい。それなのに世間は、華やかなウキウキした雰囲気になって、春の到来を待ち望んでいて、私一人取り残されたような気持ちになります。今まさに春が来て、絶望的な気分で毎日働いているのですが、そんな私の気持ちに、横尾さんのポジティブでも華やかでもない俳句が静かに寄り添ってくれた気がしました。

 

年度初めは、桜が見えるような明るい時間には帰れないし、休日もないので、就職して以来ゆっくり桜を見ることなんてなかったのですが、横尾さんの俳句が私の心の中に万朶の桜を咲かせてくれました。俳句では新しい言葉を調べて使ってみたり、盛り付けではサラダの概念を壊して斬新な色の組み合わせをしてみたり、浅い皿に盛ってみたり。そんな横尾さんの努力と挑戦に勇気をもらって、私もぐずってないでこの春を乗り越えたいと思います。