キスマイを大好きだ キスマイが大好きだ
Kis-My-Ft2の23枚目のシングル「君を大好きだ」、2月6日発売決定おめでとうございます。北山さんの主演映画の主題歌にも決まり、二重におめでたいですよね。しかも藤井フミヤさん作曲ということで、もう平成最後の名バラードになる予感しかありません。
それはそうと、タイトルにひっかかりを感じないでしょうか?あれ?君「が」大好きだ?君「を」大好きだ?「君が大好きだ」も「君を大好きだ」も言えそうな気がしますが、「君が大好きだ」のほうがよく使う言い方のような気がします。
これまでのキスマイとユニットの曲で使われている「○○が(大)好き」「○○を(大)好き」という歌詞を調べてみました。
A「○○が好き」
♪運命Girl
A1 Tell me now 俺が好きでしょ?
♪S.O.S(Smile On Smile)
A2 to smile on smile 笑顔が好き
♪棚からぼたもち(舞祭組)
A3 みんなが大好き 力になりたい
♪オタクだったってIt’s Alright!(宮田俊哉)
A4 君のことが好きだ 大好きだ
A5 君が好きって好きだよって言うから
A6 君が好きって好きだよって言わせて
♪恋愛心経(舞祭組)
A7 あなたのことが好きなんです (以下省略)
♪最幸LOVE(舞祭組)
A8 君が好きで 守りたいんです!!
A9 Happy Birthday 君が大好き
♪Re:
A10 僕が大好きな君に初めて贈るラブレター
♪道しるべ(舞祭組)
A11 僕が大好きな人が決めたことだから、受け入れるよ
♪トロになりたい(舞祭組)
A12 マグロはみんなが好きだけど
B「○○を好き」
♪Winter Lover
B1 強がりでも不器用でも 君を好きになったのは
B2 引きよせたくなるのは 君の全部を好きになったから
♪今ナニヲ想ウノ(北山宏光)
B3 どうして僕はどうして君を好きになる
B4 どうして今もどうして君を好きになる
♪ジョッシー松村のScream(二階堂高嗣)
B5 最初から玉ちゃんを好きになってはいけなかったんだわ
「○○が好き」12例に対して、「○○を好き」は5例。「○○が好き」の方が、よく使われていると言うことができます。それでも「君を大好きだ」というタイトルになったのは、作詞の藤井フミヤさんが「君が大好きだ」と「君を大好きだ」の両方をよく吟味した上で、「君を大好きだ」と決めたのだと思います。
なぜ、この曲のタイトルは「君が大好きだ」ではなく、「君を大好きだ」なのか。「君が大好きだ」と「君を大好きだ」はどう違うのかを考えてみたいと思います。
まず、「君を大好きだ」品詞分解するとこうなります。
君 /を /大好きだ
名詞(代名詞) /格助詞 /形容動詞
研究者によっては、形容動詞を認めない立場や、形容動詞ではなく「な形容詞」と呼ぶ立場などあるようですが、それは置いておいて、「ものごとの性質や状態を表す単語」が形容動詞です。ものごとの性質や状態を表すので、主語にくっついて、目的語はないのが普通です。形容動詞は他に「きれいだ」「元気だ」「静かだ」などがありますが、
花がきれいだ。 /子どもが元気だ。 /教室が静かだ。
このように形容動詞を述語として使う場合、「○○が」が付くのが普通で、「○○をきれいだ。」「○○を元気だ。」という文は成立しません。形容動詞には「○○を」は、付かないのが普通です。
でも「君を大好きだ」が「花をきれいだ」より違和感なく受け止められるのは、「(大)好きだ」という形容動詞が、「好く」という動詞から派生しているからだと思われます。「君が好く」だと「君」が別の何かを好くということになって意味が変わってしまいますから「君を好く」しか成立しません。そういうわけで「君を大好きだ」も日本語として受け入れられている表現になっています。先にあげた例のA1~9の「が」を「を」に代えても、(ちょっと違和感があるものもありますが)成立するし、意味は変わりません。
では「君が大好きだ」と「君を大好きだ」の違いを考察したいと思います。
- 誤読の可能性
「が」は主語に付く格助詞なので、「君が好きだ」と言った場合
ア 「(僕が)君に対して好きだと思っている」
という状況を思い浮かべるのが普通だとは思いますが、
イ 「君が(誰かに対して)好きだと思っている」
という状況だと解釈することも文法的には可能です。
先に挙げた例のA10、11、12はこのイの使い方です。
例えば
A12 マグロはみんなが好きだけど
この歌詞は当然「みんな」が「マグロ」を好きなのだという解釈になるわけですが、文法的には、「マグロ」が「みんな」を好きなのだと解釈することも不可能ではないです。(意味的にはありえないけれど。)
「君を好きだ」にすれば、好かれているのは「君」であるということは100%明確ですので、わずかでも生じる可能性のある誤読を防ぐことができます。
- 後に続く言葉の暗示
先に挙げた「○○を好き」B1~5に共通する特徴があるのがわかりますか?それは「好き」の後に「なる」という補助動詞を伴っていることです。動詞は「○○に」「○○を」という目的語を付けることができるので、圧倒的に違和感が薄れます。
君が好きになる / 君を好きになる
どちらも言えますけど、「君を好きになる」の方がよく使う感じがあります。このように「好き」の後ろに「になる」「でいる」等の補助動詞がつくと「を」が自然になります。
「君を大好きだ」は、2月15日公開の北山さん主演映画「トラさん~僕が猫になったワケ~」の主題歌です。そのストーリーを考え合わせると、
「(今までだけでなくこれからも)君を大好き(でいるの)だ」
というニュアンスを含んでいるのかもしれません。
- 主語の暗示
日本語では、一つの文の中で同じ助詞を使うのを避ける傾向があるので、「君が大好きだ」という文に、「好く」という動作の主体を付け足す場合「僕が君が大好きだ」とは言いません。「僕は君が大好きだ」という言い方が多いとは思いますが、「僕が」を固定にすると、
「僕が君を大好きだ」
となります。日本語は主語が省略されやすい言語ですが、常に省略されている主語は意識されています。「君が大好きだ」と言った場合、主語があって、文として完結しているので、これ以上考えることはありませんが、「君を大好きだ」と言った場合は、主語がないので、「君」のことを好いている「誰か」、つまり歌い手であるKis-My-Ft2や映画の主人公である寿々男の存在が意識されることになります。
- 対象を明確にする
格助詞「を」の役割は4つあります。
ア 動作・作用の目的・対象を示す 例 新聞を読む
イ 経過する場所・時間を示す 例 一日を過ごす
ウ 動作・作用の起点を示す 例 故郷を離れる
エ 動作・作用の方向を示す 例 右を見ろ
「君を大好きだ」の「を」はアの使い方です。「君」は「好き」の対象です。この歌の歌い手を「僕」と呼ぶことにすると、「君を大好きだ」という言い方は、
僕 → 君
の方向に動作が作用していることが明確になり、「僕」から「君」への一方向の想いであるという印象になります。「トラさん」のストーリーを考え合わせると、寿々男はいつまでも奥さんや娘のことを思っているけれど、奥さんや娘は寿々男のことは想い出として胸にしまいながら、前を向いて生きていかなくてはなりません。「君を大好きだ」という表現で「好き」の方向を一方向にしたことで、
(君は僕を大好きでいなくていいけれど、)僕は君を大好きだ
というニュアンスが強くなるのではないかと感じました。
- まとめ
「君が大好きだ」と「君を大好きだ」は、文法的に意味の違いはありませんが、ニュアンスの違いはあると思います。
「君が大好きだ」
・違和感のない言い方
・文が完結しているのでそれ以上の広がりはない
=ストレートで強い言い方
「君を大好きだ」
・少しひっかかりのある言い方だが、誤読の可能性はない
・完結していないので、動作の主体である「僕」の存在を感じさせる
・書かれていないはずの、前にある言葉、後ろに続く言葉を意識させる
・一方向の「好き」で、返しを求めない印象
=様々な可能性が広がる繊細な言い方
作詞された藤井フミヤさんは、映画の脚本を読んで浮かんだイメージだけでなく、キスマイが歌っているイメージや、ファンが聞いているイメージも合わせて「君を大好きだ」だとおっしゃっています。キスマイとファンがお互いに、どんな君だったとしても、これからもずっと、見返りを求めず「君を大好きだ」と思える関係だったら幸せなことです。本当に素敵な歌詞だと思います。
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個人的な解釈ですがいかがでしょうか?大学時代以来久しぶりに文法書を調べました。藤井フミヤさんやキスマイやavex様が答えを教えて下さることはあるかな?MVや映画にヒントはあるかな?2月6日のシングル発売と2月15日の映画公開がとても楽しみです。