分かり合える方法論 ―――3月25日横尾さんの俳句に寄せて
祝・春光戦優勝!!自慢の自担です!!
いつもは予選が行われてすぐ本選になるプレバト!俳句タイトル戦。今回は1カ月ほど間が開き、その間に予告では横尾さんがフィーチャーされてるし、前日には横尾さんの俳句が中学国語の副教材に掲載されるという嬉しい知らせは入るし、いったい何の伏線?何かの前触れ?とドキドキしながら番組を見ました。俳句四天王が次々に陥落していく中、ラストは永世名人梅沢さんと二人で残される展開に、心臓が止まりそうになりながら見ていましたが、見事に優勝に輝いた横尾さんを本当に本当に誇りに思います。
*****
2021.3.25 お題「じゃんけん」
春光戦 優勝
季語…風光る(春)
浜風…海辺を吹く風のことだが、特に甲子園球場に吹く風のことをこう呼ぶ
風光る…春になってきらめく陽ざしの中、吹く風の様子
スクイズ…野球用語。「スクイズプレー」の略。三塁走者が打者と示し合わせてバントによって生還する攻撃方法
番組予告で「浜風光る」までは披露されていたので、海辺ののどかな春の光景を詠んだ俳句なのかなと思っていましたが、続く「スクイズの」で、場所は甲子園球場であり、春のセンバツ高校野球を詠んだものだとわかりました。そして、「土埃」で、スクイズして3塁ランナーが滑り込んできたが、舞い上がる土埃でよく見えない、果たしてアウトかセーフか、球場中が固唾を飲んで審判のコールを待つ一瞬の静寂と、その後に沸き起こる大歓声までもが表現されています。夏井先生から「作者が思った方向に読みを引っ張る」というお言葉がありましたが、まさにうららかな春の海辺から、白熱の甲子園のアルプススタンドまで、17音で一気に連れてこられた気がしました。
兼題写真は「じゃんけん」なのですが、横尾さんはじゃんけんから、キャッチャーが出すサインに発想を飛ばしました。キャッチャー経験者の横尾さんならではの発想だと思います。スクイズの場面って、いったいキャッチャーはどんな心境なのでしょう。スクイズを警戒して外すのか、それではボールカウントが不利になるからストライクを取りに行くのか、いったん牽制球で様子を見るのか。キャッチャーはたった一人で、バッターや三塁ランナーの様子を観察して相手の動きを予測し、ピッチャーの状態も考慮して、次にどうするかを決断し、サインを出さなければなりません。野球経験のない私にはとても耐えられないプレッシャーのように思えるのですが、幼い日の横尾少年はそんな場面を何度も経験して、今の観察眼や度胸が培われていったのかなと思いました。
「風光る」という季語と野球の組み合わせは、ちょうど1年前にも「風光る 硬式グラブ 縛る紐」で使っていて、その時は現状維持の判定でした。それでも同じ季語を使ったのは、この明るくて美しい季語で、2年ぶりの開催となった春のセンバツ高校野球をどうしても詠みたかったのではないかと思います。上五を「風光る」として、定型の句を詠むこともできたのでしょうけれど、甲子園に吹く「浜風」と季語を組み合わせ、さらに野球用語を読み込むことで甲子園だと分からせるチャレンジが見事だと思いました。横尾さんの俳句に隠された努力や挑戦にいつも勇気をもらっています。
昨日の「キスマイRadio」では、話したことが誤解されて受け取られることもあるという話題の中で、横尾さんは「嫌われてもかまわない。わかってくれる人だけでいい」というようなことをおっしゃっていました。横尾さんって、ファンに対して、自分の想いをはっきりとわかりやすい方法では言わない人。そんな横尾さんの不合理で拙い方法論*1 を、私は「わかってくれる人」の一人でいたいと強く思いました。それは、本当に伝わらなくてかまわないと思っている人は、こんなに努力して自分の想いを伝える俳句を詠むことはしないと思うから。
*1:Kis-My-Ft2「Luv Bias」