みかんいろの月

Kis-My-Ft2の横尾さんがダイスキデス。

未知を見たくて ―――8月20日横尾さんの俳句に寄せて

今回のプレバト俳句のお題は「カレーライス」。最近すっかり「10万円でできるかな」でも「キスマイどきどきーん」でも、調理のみならず「食」全般担当になりつつある横尾さんに何てぴったりのお題!絶対昇格間違いなし!と思いながら番組を見ました。

 

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2020.8.20 お題「カレーライス」

 

遠雷の夜汽車 カカオの奴隷史

 

名人5段昇格

季語…遠雷(夏)

遠雷…遠くで鳴っている雷

夜汽車…夜行列車のこと

カカオ…チョコレートの原料となる植物。カカオの生産には奴隷労働が多く使われてきたという歴史がある。

 

 

披露された瞬間びっくりしました。きっと料理上手の横尾さんなら料理のエピソードかな?幼い頃のお母さんの手作りカレーの思い出かな?と思っていたら、全く違うところから切り取ってきて、理解が追いつくまでにしばらくかかりました。カカオはカレーの隠し味によく使われるということから発想を飛ばした句。夜行列車に乗って、チョコレートの歴史についての本を読み、カカオ栽培に奴隷が使われてきた歴史に衝撃を受ける。遠くから雷の音が不気味に響いてくる…。

 

まず「遠雷」「夜汽車」「カカオ」「奴隷史」という言葉の取り合わせ。横尾さんの言葉の取り合わせのセンスにはいつも感心させられますが、今回は今までの俳句の中でも一番衝撃的でした。いったいこの世で「カレーライスで一句詠め」と言われて「奴隷史」という言葉が出てくる人が他にいるでしょうか。夜行列車で旅行にでかけるウキウキした気分と不気味な遠雷の音。甘いチョコレートと重くて苦しい奴隷の歴史。よくこの全く性格の違う言葉を取り合わせて、絶妙なバランスの上に俳句を成立させたものだと思います。

 

そして字数。夏井先生のおっしゃったように、切れ字を入れて十七字にすることも可能なのですが、やっぱり読んでみるとバランスが崩れてしまう。字足らずにしたことで、こちらに投げかけて、読み手をドキッとさせるような効果も感じました。字数については過去に何回か指摘を受けてきたので、横尾さんは何度も何度も口に出して試してみたのだと思います。演出の水野さんのツイッターにもありましたが、全国放送の番組で十六字でいいと自分を信じて提出する勇気に感服しますし、その勇気が報われて本当によかったと思います。

 

少し調べてみたところ、カカオの栽培に奴隷が使われていたのは決して過去の話ではなく、現在でも奴隷制度としてはなくなっていても、奴隷同然の強制労働や、児童労働がカカオの栽培を支えている国もあるそうです。しかし、チョコレートの売り上げは、ほとんど先進国の大企業のものになり、労働者への見返りは少ない。先進国と途上国の格差やフェアトレード、児童福祉の問題にもつながる俳句で、横尾さんがどこまで意識していたかはわからないけれど、それを詠みこむ勇気もすごいと思いました。

 

今日の横尾さんは、俳句の内容は社会派だし、他の人の俳句への指摘も的確だし、ビジュアル的にもものすごく優等生っぽくて別人みたい。でも、横尾さんがVOCE3月号で「サンライズ瀬戸(夜行列車)に乗りたい」とおっしゃっていたことや、たびたび「歴史が好き。もっと勉強しなければ」と発言していることがこの俳句にもつながっていて、横尾さんらしさも感じました。横尾さん、サンライズ瀬戸に乗れたのでしょうか。それとも想像の中で乗ったのでしょうか。

 

個人的には、「夜汽車」という言葉に、2015年7月の「夏帽子 夜行列車の 網棚に」を思い出しました。私が横尾さんを好きになって、初めてリアルタイムで番組を見た時に横尾さんが詠んだ俳句。十七字からさらに広がっていく情景を感じて「横尾さんってすごい。俳句っておもしろい」と思ったのが、今思えば沼の入り口だったような気がします。あれから5年経ちましたが、私はまだ横尾さんってこんな人って説明することができない。横尾さんは、私がきっとこうするだろう、こうすればいいのに、と思ったことを、いつも軽やかに超えてくる人だということを、今日の俳句で改めて見せつけられたような気がします。横尾さんは、捕まえた!と思っても、指の間からするりと抜け出す蝶のような人。でもその指先に残った鱗粉が聖痕のように尊くて、私はきっとこれからもこの蝶を追い続けてしまうのでしょう。