みかんいろの月

Kis-My-Ft2の横尾さんがダイスキデス。

希望のツバサ ―――4月28日横尾さんの俳句に寄せて

4月28日のプレバトは、横尾さんが久しぶりに俳句以外のジャンルにも挑戦しました。残念ながらバナナアートで3位凡人に沈み、「俳句だけなんでしょうね、ワタクシは…」とつぶやいた横尾さんの俳句は…

 

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2022.4.28 お題「ゴールデンウイーク」

 

函嶺の スイッチバック 朝燕

 

名人9段昇格

季語:朝燕(春)

函嶺(かんれい)…箱根山の別称

スイッチバック…急斜面を登るために、ジグザグに線路が敷かれ、切り返しながら進む鉄道

朝燕(あさつばめ)…朝方に見られる燕

 

 

 

披露された瞬間、すべての言葉が美しくてうっとりしてしまいました。

 

まず箱根山の別称である「函嶺」。私がこの言葉を知っていたのは、箱根駅伝でいつも5区と6区の選手が「函嶺洞門」を通るからで(最近コース変更して、今は通っていないようです)、箱根駅伝ファンの横尾さんもきっとここから知ったのではないかと思います。五音なら例えば「箱根山」や「箱根路の」等でも成立すると思いますが、「函嶺」としたことで格調があがる、上五で読み手を引き付けるインパクトがある、耳で聞くと「寒冷」と結びついてひんやりとした心地よさを感じる等、様々な効果がある言葉だと思いました。

 

スイッチバック」は箱根登山鉄道が、急斜面を登るためにこの方式を採用しているから。私も箱根に行くときに乗りましたが、体感としては元の道を引き返しているような感じがするのに、実は少しずつ軌道を変えて昇っている。最短距離ではたどりつけなくても、遠回りして目標に近づいていくというのは、まるで人生を示唆しているような感じもします。また、従来の俳句ではあまり使われないようなカタカナ語を意図的に使うのも、最近の横尾さんの挑戦だと思います。(「ミニマリスト」「CEO」「プラレール」等)

 

そして「朝燕」。「燕」だけでも季語として成立しますが、「朝燕」としたことで、時間がわかり、読み手に情景を伝えます。また、日本では燕は害虫を食べてくれる益鳥であり、燕が家に巣をつくると幸運が訪れる、商売が繁盛するという言い伝えもあって、縁起の良いイメージがある鳥なので、句に明るさや幸福感をもたらしています。

 

そして、夏井先生がおっしゃったように、この三語の絶妙な距離感。近すぎたら言う必要がないし、遠すぎたら違和感が生じてしまう。箱根と言えば、温泉、芦ノ湖あじさい…たくさんあるけど、これも箱根の象徴の1つである箱根登山鉄道スイッチバックスイッチバックの切り返しには、雛に餌を運ぶために何度も往復する燕の姿が重なります。箱根の山の澄んだ空気と、さわやかな朝の燕の取り合わせも美しい。また、「函嶺」という音読みの硬質で冷ややかな響き、「スイッチバック」という外来語の新しくて軽やかな響き、「朝燕」という和語のやわらかで温かい響きという響きの組み合わせにも日本語の美しさ、豊かさを感じました。三つの言葉がしっかり絡み合っていて、一語も動かせない強さ。この組み合わせに決まるまで、いったいどれほどの言葉が浮かんで消えていったのでしょう。

 

この俳句を読んで、思い浮かんだのはKis-My-Ft2の「ツバサ」。「燕」からの連想であるのはもちろんですが、「少し登ってまた戻されて」「乾く大地 助走をつけて そう、何度だって」という歌詞はスイッチバックとも重なります。この美しくてさわやかで力強い俳句で名人9段に昇格した横尾さん。特待生に昇格してから6年、名人に昇格してから5年(そんなに時間がかかったのは、横尾さんの才能云々ではなく、出演回数が他の名人に比べて少ないからということは声を大にして言っておきたい!)、何度も切り返しながら、ついに名人10段が見えてきました。どんなに辛くても挫けそうでも、希望のツバサが横尾さんを山頂へ運んでくれますように。